画家の暮らした建物

展覧会のあゆみ

区民ギャラリーの20年
 


●清川泰次記念ギャラリー 展覧会のあゆみ
静岡県浜松市に生まれた清川泰次は、慶應義塾大学経済学部に在学中、独学で油絵をはじめ、卒業後より画家としての活動を開始しました。清川がのこした作品の多くは絵画作品ですが、その創作は立体作品にも展開し、さらに食器をはじめデザインも手がけました。世田谷美術館には絵画作品や立体作品のほか、清川がデザインした製品、また学生時代に撮影した写真のフィルムなどが収蔵されています。清川泰次記念ギャラリーでは開館以来、年に23回の収蔵品展を通じて、これらの作品や資料を様々な切り口で展覧してきました。

 

―絵画作品

清川は、1940年代より画家としての活動をはじめました。当初は具象的な作風から出発しましたが、抽象表現主義が隆盛していたアメリカに1951年から3年間滞在し、これを機に本格的に抽象表現へ移行することを決意します。次第に清川の画面から具象的な形態が消え、帰国後は線や色面が複雑に交錯した作品を多く描くようになりました。その後、清川は、アメリカでもう一度本格的な仕事がしたいと1963年から66年まで2度目の渡米を果たします。この頃より白を基調とした作品に取り組むようになり、1970年代から80年代には、白く塗ったカンヴァスに鉛筆などで線を引く独自のスタイルに至りました。晩年の1990年代には、再び色彩豊かな作風となり、三角形や矩形といった幾何学的な色面を用いて、線、色、形の構成による美の探求を続けました。

清川泰次記念ギャラリーでは、開館記念展として開催された「清川泰次の世界」を皮切りに、清川の絵画作品をご紹介する収蔵品展を数多く開催してきました。「清川泰次 その色彩と展開」(2005年)や、「清川泰次―線をめぐって」(2014年)「清川泰次 色をめぐって」(2022年)は、清川の作品における色彩や線に着目し、その変遷を紹介した展覧会です。「清川泰次 “白の世界”へ展」(2004年)「清川泰次 白と線の時代」(2022年)では、清川が白に魅了され独自のスタイルを確立した1970年代から80年代の作品を中心にとりあげました。

また、2度の渡米に焦点を当てた展覧会も開催しています。「清川泰次と1950-60年代のアメリカ」(2010年)「清川泰次 イン・シカゴ」(2015年)「清川泰次とアメリカ」(2021年)では、滞在中に制作された作品群を展示し、画風の変化に大きな影響を及ぼしたアメリカでの経験をご紹介しました。

「清川泰次 色をめぐって」(2022年)撮影:上野則宏
「清川泰次 色をめぐって」(2022年)撮影:上野則宏
「清川泰次 白と線の時代」(2022年)撮影:上野則宏
「清川泰次とアメリカ」(2021年)撮影:上野則宏
「清川泰次とアメリカ」(2021年)撮影:上野則宏

―立体作品とデザイン

清川は、絵画作品に加え、1970年代より鏡面仕上げのステンレスによる立体作品を制作しています。またデザインの仕事にも携わり、グラス、皿、カップやソーサーをはじめとしたテーブルウェア、ハンカチなどが西武百貨店より販売されました。そのほか、1979年にはハウスメーカー、ミサワホームの住宅のためにデザインされたカーテンも発売されました。これらには絵画作品で試みた線による表現が用いられ、平面作品における美の探求が立体作品やデザインへと繋がっていることが分かります。

 「清川泰次の世界Ⅲ ジャンルを超えて 絵画からの展開」(2013年)「清川泰次 平面と立体」(2017年)「清川泰次 色・線・形の探求とデザインへの展開」(2019年)「清川泰次 絵画とテキスタイルデザイン」(2023年)では、絵画という枠にとどまらない清川の幅広い創作の展開をご覧いただきました。


「清川泰次 平面と立体」(2017年)「清川泰次 平面と立体」(2017年)「清川泰次 色・線・形の探求とデザインへの展開」(2019年) 撮影:上野則宏「清川泰次 色・線・形の探求とデザインへの展開」(2019年) 撮影:上野則宏「清川泰次 色・線・形の探求とデザインへの展開」(2019年) 撮影:上野則宏「清川泰次 絵画とテキスタイルデザイン」(2023年)撮影:上野則宏「清川泰次 絵画とテキスタイルデザイン」(2023年)撮影:上野則宏

 

―写真

清川は、画家として活動する以前の学生時代、写真に強い関心を抱いていました。1936年に慶應義塾大学予科に入学後、清川は写真部に所属し、ライカやイコフレックスなどのカメラで数千点におよぶ写真を撮影しています。清川が丹念にまとめたアルバムには、現像した写真が貼られるだけでなく、使用しているカメラやレンズ、付属品の使い心地が細かく書き込まれ、若き清川の、写真への熱中ぶりがうかがえます。清川の写真は、あくまでアマチュアカメラマンとして撮影したものではありますが、各地の風景やそこで暮らす人々が美しく切り取られ、昭和初期の日本の様子を捉えた貴重な資料といえます。

そして画家として歩みはじめた後、1950年代に渡米した際にも、清川は現地で購入した「ステレオ・リアリスト」という2つのレンズで立体写真を撮影するカメラを使用して数々の写真を撮りました。これらの写真にはアメリカのほか、1954年に歴訪したヨーロッパやアジアなどの風景が、当時はまだ珍しかったカラーフィルムで捉えられています。そのなかには、清川がパリで画家・藤田嗣治のアトリエを訪れた際に室内の様子を写したフィルムも含まれています。

清川泰次記念ギャラリーでは、のこされたフィルムの一部をデジタル化のうえ、新たにプリントし、収蔵品展でご紹介してきました。デジタル化をはじめた2006年から2008年には Ça c'est paris サ・セ・パリ:清川泰次が写したパリと藤田嗣治のアトリエ」(2006年)「陰翳礼讃 清川泰次と日本美 青年が写した昭和の光と影」(2006年)「青年とライカ 清川泰次がライカⅢaで写した昭和初期の学生生活」(2007年)をはじめ、写真の展覧会を集中的に開催し、その後も「清川泰次と昭和」(2015年)「清川泰次 水のある風景と昭和の人々」(2021年)など、継続的に写真をとりあげています。

 


以上のように清川泰次記念ギャラリーでは、開館から20年にわたり収蔵品を活用した展覧会を開催してきました。今後も、所蔵する作品や資料の調査・研究を継続し、多様な視点で清川泰次の芸術を紹介していきます。

 

清川泰次記念ギャラリー 年報一覧

2003年度   2004年度   2005年度   2006年度   2007年度   2008年度   2009年度   2010年度   2011年度   2012年度

2013年度   2014年度   2015年度   2016年度   2017年度   2018年度   2019年度   2020年度   2021年度   2022年度



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